東京高等裁判所 昭和52年(う)555号 判決
被告人 小井戸正雄
〔抄 録〕
控訴趣意第一の一(所得税法九条一項一一号イが憲法一四条に違反するとの論旨)について
所得税法(以下単に法ということがある)七条一項一号は、非永住者以外の居住者については、すべての所得に対し所得税を課する旨、課税所得の範囲についての所得税法上の大原則を明らかにしたうえ、法九条以下等において、課税技術上の見地各種政策上または公益上の見地等から非課税所得の範囲を定めている。そこで、有価証券の譲渡による所得につきみると、法九条一項一一号は、非課税所得として「有価証券の譲渡による所得のうち、次に掲げる所得以外のもの」を掲げ同号イにおいて「継続して有価証券を売買することによる所得として政令で定めたもの」と規定し、これをうけた同法施行令(以下単に施行令ということがある)二六条一項は、法九条一項一一号イに規定する政令で定める所得は「……営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得とする」と規定しているのである。ところで、有価証券の譲渡による所得のうち、非課税所得となるものをもうけたのは、主として、有価証券の譲渡所得が、その性質上捕捉がきわめて困難であるという執行上の観点および有価証券市場への投資を促進し資本の蓄積をはかるという政策上の観点からであると理解されるのであるから、法九条一項一一号イ、施行令二六条一項が規定する「営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得」のように比較的容易に捕捉が可能であり、かつ、有価証券市場への投資を促進し、資本の蓄積をはかるという観点からすればそれほど保護に値しないような目的をもった取引から生じた所得についてまで非課税とする実質的な根拠はむしろないといえるのであり、かかる所得については前記法七条一項一号の、すべての所得には所得税を課するとの原則に従って課税することが合理的であるというべきである。したがって、法九条一項一一号イの規定につき、継続性の有無によって区別をするのは不合理な差別であるとか、大資本家と中小資本家とを不合理に差別することとなるとかいう所論は、とうてい採用できないのであり、右規定は憲法一四条に違反するものではない。よって、本件における被告人の有価証券の譲渡(以下単に株式の売買ということがある)による所得につき法九条一一項一号イに該当する課税所得であるとして、被告人の本件所為につき法二三八条を適用した原判決には所論のような法令適用の誤りはない。
(石崎 森 中野)